2005年08月22日

六番目の小夜子  恩田陸

4101234132六番目の小夜子
恩田 陸
新潮社 2001-01


久々に、日本人作家のお気に入りが出来た。

「新潮文庫の100冊」をYonda君目当てに物色していて、
やっぱり夏だからこんなのも良いか・・・と手に取った一冊。

とある地方の進学校、その高校には十数年間に渡って奇妙な伝説が受け継がれていた。
3年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が見えざる手で選ばれる。
そして今年は六番目の「サヨコ」が誕生する年だった。


高校という閉じられた空間の中での伝説、
過去の不可解な事件と共に代々の生徒に記憶され、いつしか語るのが無意識にタブーとなっているにも関わらず殆どの生徒が聞き知っており、脈々と途切れることなく卒業してゆく生徒から、それは受け継がれてゆく。

最初は学校の怪談物かと思ったのだ。
そして確かに物語の表面はそのように進んでゆく。
「サヨコ」とは何なのか、サヨコはいったい誰なのか。
何故続いて来たのか。何故やめることが出来ないのか。
不安と恐怖と期待が入り混じった雰囲気の中、物語は繰り広げられる。
閉じられた空間である学校という存在がそれを増幅させてゆく。

そういうストーリーとは反対に、この物語から受ける印象は、
そう、「ノスタルジー」だ。

高校時代、子供であった時間と、大人である事を要求される社会に出てゆく前の何処にも属さない高校生という3年間。
 
高校生は、中途半端な派境の位置にあって、自分たちのいちばん弱くて脆い部分だけで世界と戦っている、特殊な生き物のような気がする、この三年間の時間と空間は奇妙に宙ぶらりんだ。その宙ぶらりんの不安に、何かが忍び込んでくる。(本文より引用)

3年にもなり、この時間が二度とめぐってこないのだという現実に、突然気がついてしまった不安と焦り。
その一瞬がとてつもなく大切なものに思えた頃・・・

夏はうんざりするほど暑く、重たげにゆるやかに過ぎていった。
後期の講習が始まり、四人は毎日のようにお茶を飲んではとりとめもなく話をした。
なぜこんなに楽しいのかよくわからなかったが、それでも全然飽きなかった。
四人はせきたてられるようにしゃべりまくり、つまらない冗談でも大笑いした。
ちょっとでも話がとぎれるのをおそれているかのように、まるでこの夏に話をしておかなければ一生会うことが出来ないかのように、
毎日お互いの姿を求めて集まっていた。
なんでこんなに必死なんだろ、俺たち。
由紀夫はひりひりするような焦燥感を覚えるのと同時に、この状態をとても気に入っていた。四人で過ごす夏は「パーフェクト」な感じがした。

こうして四人で過ごせる最高の時間がほんの少ししかないことも、彼は心のどこかで承知していた。
たとえ四人が大学生になって再会したとしても、もう二度とこんな一体感、この四人がいるべき場所にいるという、世界の秩序の一部になったような満足感を味わうことはないだろうと。(本文より引用)


生徒は3年で卒業してゆく、高校生活は終わりを告げる。
友人達はみなこれからひとりひとり違う道を歩き始める。
川のように流れるその刹那。
でも学校はいつもそこに在る。学校にはそのエネルギーがどんどん蓄積されてゆく。

この物語で繰り返し繰り返し描かれるのは、そういった青春の一瞬の輝きを懐かしく思い出させるものばかりだ。


十代の子がこの物語を読んだとしたら、もっとこの学校の怪談的サヨコの謎と謎解きの部分に魅力を感じるだろう。
そうした時に、解決されずに後に残される謎は気になるところかもしれない。

でも、もう戻らない十代を懐かしく愛しさをもって思い出す世代になってしまった私がこの小説を読んだ読後感は、ノスタルジーに加えて、爽やかさと愛おしさ。

この愛しい高校生達の群像劇は、この夏私の心のひとつの清涼剤になったことは確かだ。


ついでに、恩田陸の小説を立て続けに読んでしまった。

夜のピクニック
恩田 陸
4103971053

「夜のピクニック」
80キロをただひたすら一晩かけて歩く、という行事を通して描かれる、青春と友情の宝石のような時。
ストーリーとしては、歩く以外のことは起こらないのに、全く退屈することなく、読み進んでしまう。
十代の頃、自分は何を感じ、何を考えていたのだろうか。
友人と交わした、昔の手紙を読み返したい衝動にかられる・・・

図書室の海
恩田 陸
4101234167

「図書室の海」
恩田陸の長編小説の予告編集とも言える、短編集。
上記の「六番目の小夜子」に関する短編もある。

ネバーランド
恩田 陸
4087475778

「ネバーランド」
これは買ってあるけどまだ読んでいない。




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posted by ruru at 18:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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