2005年08月24日

「徘徊許可証」 平和ボケもここまでくれば・・・

宇宙市民
ロバート シェクリイ 伊藤 典夫
4150107491


日本の星新一等にも影響を与えた短編SFの名手、ロバート・シェクリィの、
シニカルなユーモアに満ちた傑作短編集「宇宙市民」に納められた短編の中の一つ。
SFとしては古典の部類かな。

大いなる勘違いの物語なのだ。大いに笑える。
文明から隔離されてしまった、地球から遠く離れた植民地が、地球の調査官を迎えるために必死に地球の文明に追いつこうと中身のない文明化という取り繕いに右往左往する。
犯罪者がいるということを文明化の証と勘違いし、村人が一致団結して犯罪作りの努力する姿がなんとも微笑ましくて、お気に入りの一編。



惑星ニュー・デラウェアは、何百年も前に地球から移住して来た人々が住む植民地だった。
あるのは森と、ちいさな村がひとつだけ。
歴代市長のオフィスには星間通信機と呼ばれる機械が埃をかぶって置かれていた。
二百年前は人々はそれを使って地球や、地球民主連合の諸惑星と語り合っていたらしい。
あるとき、地球に戦争が起こったらしく、星間通信機は沈黙した。
ニュー・デラウェアには村が一つしかなく、参戦するにはあまりにも小さく、また遠かった。
彼らはニュースを待ちわびたがどこからも音沙汰はなく、やがて村を疫病が襲い人口の4分の3が死んだ。
痛手から立ち直るには長い時間がかかり、その間村人たちは新しい暮らし方を考え出し、地球のことはすっかり忘れてしまった。

ところが、ある時その古代の通信機が生き返った。
村人達は市長の家に集まり、固唾を呑んで通信機に耳をかたむけた。

地球から発せられたその通信は、ニューデラウェアが地球帝国の植民星であり、その法の下にあることを宣言し、帝国を統治するための居留地調査官を派遣するという内容だった。
そこが地球植民地であることを確認したまえ。植民地に規律をしくのだ。そうでなければそれは異星人とみなす。

村人が地球に忠誠を誓い、従う為に出来ることは、昔の書物に示されている地球の有様を忠実に、しかも急いでまねることしかなかった。

調査官がくるという期日までの2週間、彼らは昔の地球の本をたよりに必死で教会をつくり、郵便局を作り刑務所、赤い屋根の校舎を建てた。
彼らの誰一人としてこれらの建物を何に使うのか知っているのもはいなかった。
いきなり警察署長へ任命されたビリイ、郵便局員にされたジェッド、もちろん何をすればよいのかも解らない。

そしてトムが任命されたのは、地球的にする為には絶対に欠かすことの出来ない役割、
「犯罪者」。

ここに犯罪が無いことを調査官に知られたら、われわれは異星人になってしまう。

トムは市長に与えられた「徘徊許可証」を手に、強盗と殺人の実行に頭を悩ませる。
なかなか盗みの要領がわからないトムに業を煮やした村人は、これを盗めば?あれを盗めば?そうだ、これを持っていけよ。
と村人は皆で一生懸命トムに協力する。
盗みは皆の協力でなんとかなった。だが、市長は彼に釘をさす。
「人殺しを忘れるなよ。」
地球的にやろうとするなら、徹底的に見習わなくてはならない。これが地球に属する唯一の道だ。

トムが殺人の必要性に悩み、誰を殺すかで悩み、悶々としているうちに調査官はやって来た。
焦る市長と村人たち。
トムは殺人を犯し、この村が地球的であると証明することは出来るのか。


人々の期待をよそに、トムは結局村人を殺すことはどうしても出来ず、調査官に武器を向ける。
「この村には二百年間人殺しがなかったんだ!今こそそれを書き換えてやる!」
だが彼にはどうしても引き金を引くことができなかった。

市長はしかたなく調査官にすべてを説明した。
村では文明が遅れている為に犯罪がなかったこと。
村でただ一人の漁師であるトムにその仕事を与えたこと。
彼にできないとわかったとき、人々がどれほど恥ずかしく思ったかということ。

徴兵が無意味だと解った調査官は去っていく。

情けない声で詫びるトムを市長はじめ村人達が慰める。
「誰にもできない仕事だったんだ。するだけのことはしたんだ。気にするな」
「誰のせいでもないよ。この二百年間に文明化しなかったのが悪いんだ。地球がどれくらいかかって文明化したか考えてみよう。
 俺達はそれを二週間でやろうとしたんだ。」
「また原始時代に逆戻りか・・・」

地球は遠のき、文明は何世紀も未来へ飛び去ってしまった・・・



ハヤカワ文庫から出版され、今はもう絶版になっているらしい「宇宙市民」

殺人事件のニュースが絶えない昨今、ふと読みたくなって本箱の奥から引っ張り出して来た。


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posted by ruru at 09:43| Comment(2) | TrackBack(0) | 本の感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とすると、日本は本当の意味で「平和ボケ」に入らない?

関係ない話なのですが、SF短編で思い出したのが一つ。小松左京で、久しぶりに地球に戻ると月がない。なぜかとバーで聞けば、観光客が甲子園の砂よろしく記念に取って帰ったから。バーを出た男が土を掘り返している。「いや、記念にね…」

SF詳しくありませんが、ブラックなユーモアのあるものありますね。

絶版なんですか…
Posted by emily at 2005年08月25日 00:29
私、この手の短編SF好きなんですよ。
レイ・ブラッドベリも大好き。こちらはもっと情緒的ですが。

小松左京もいいですね。その話傑作(笑)
甲子園は実際毎年かなりの砂を追加するらしいですね。
Posted by ruru at 2005年08月25日 16:01
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