「眠い・・・」とつぶやきながら仕事をする私に、「まだ直んないのー?無理にでも体動かさなきゃだめだよ」と同僚。
この眠さは体を動かした方がいいのか、はたまた気が済むまで寝たほうがいいのか?
昨日の仕事は午前中で完了。
気になっていた映画「ヴェニスの商人」が25日で終了予定だったのを思い出した。
東京ではテアトル系の新宿、銀座2館のみだったので、昨日の仕事先からも自宅からも近い方の銀座へ向かう。
着いてみると、12月2日まで上映延長が決定。どうもその他でも上映予定映画館が増えている様子。
結構静かに人気が出ているようだ。
シェイクスピアの書いた戯曲の中で最も人気が高く、日本でも最初に上演されたシェイクスピア劇として知られる『ヴェニスの商人』。
ストーリーは結構子供の時に聞いた事や読んだ事がある人が多いはずだ。
私も、中学校の時の学園祭の出し物でやった記憶がある。私は確か音響効果担当だった。
この話は、恋愛と友情と強欲なユダヤ人をめぐる法廷裁判、と盛りだくさんの内容で、多分元々はどちらかというと喜劇であり、ヤイヤイ言いながら見る通俗的な劇だったのだろうと、私は思っている。
映画を観た感想としては、私はすばらしかったと思う。
16世紀を見事に再現したヴェニス現地ロケの迫力、衣装の豪華さ。脚本と俳優のすばらしさ。
どれをとっても、リアリティに溢れている。
しかし、何と言っても俳優陣のすばらしさにはさすが、と感嘆する。
抑えた演出の中、俳優の名演が光る。
ユダヤ人高利貸しシャイロックを演じるアル・パチーノの説得力のある名演には、本来忌み嫌われる役であるにもかかわらず、迫害され、裏切られた者の悲しみと怒りが滲み出ている。
法の上では平等であるにも関わらず、迫害され続ける怒り。
妻を亡くし、娘にも裏切られて財産を無くしてしまう悲しみ。
つのる怒りと悲しみを憎しみに変えるしかないやるせなさ。
意固地になり、復讐に駆られて不条理な要求を突きつけるが、結局はやり込められてしまう落胆。
どうにもならないもどかしさに涙した人は多いだろう。
年下の友人の為にシャイロックに借金をし、窮地に立たされる商人のジェレミー・アイアンズ。彼はシェークスピアが似合う。もちろん、彼は元々シェークスピア俳優である。
アントーニオはもっと若い役だと思っていたが、ジェレミー・アイアンズ演じるアントーニオにもリアルな説得力が感じられた。
わき目もふらずに商売に打ち込み、財を成した裕福な初老の商人。
年若い友人バッサーニオは高貴な生まれだが、放浪好きな浪費家で若さゆえの無茶な所もある。
アントーニオの彼に対する愛情は、自分に無いものを持っている彼へのまぶしさ、羨ましさもあるのだろう。
(妖しげな関係も匂わせるが・・・これはシェークスピア劇特有の味付け?)
存在感を出しすぎることなく、抑えた控えめな演技で真面目だがちょっとなさけない男になりきっていた。
主要人物の中で一番能天気なのは、アントーニオに借金をさせた張本人のバッサーニオ。
彼は自分の財産を浪費し、使い果たしてしまい、逆玉を狙ってポーシャと結婚する為にアントーニオに借金を頼みに来るのだ。
でも、高貴で若く品があり、情熱的で悪意のない所が許せてしまう、明るく自然体な若者を演じたのはジョセフ・ファインズ。
彼は「恋に落ちたシェイクスピア」でシェイクスピア本人を演じていた。
シェイクスピア劇の中でもっとも聡明な女性、ポーシャ役のリン・コリンズは、ボッティチェリの絵から抜け出て来たような美人だ。
聡明さと無邪気さ、恋する女性、強い女性が混在した魅力的なポーシャだった。
バッサーニオのちょっと軽薄そうな友人もなんかいい味を出してた。
この物語をどう解釈するか、これは時によって変わるのだと思うが、現代になるほどにずるがしこいユダヤ人をやり込める物語から、ユダヤ人の悲劇の方に視点は移ってくるように思う。
シャイロックのやり方は間違ってはいるけども、彼の主張しようとした事は理解されなくてはならないはずだった。
ユダヤ人というだけで、キリスト教と違うだけで、同じ人間であるのになぜ迫害されなくてはならないのか。
正義とはいったい何なのか?
結局は方法論の問題でシャイロックは敗北し、一件落着良かった良かった、と裁判の幕は下りる。
シェイクスピアの時代の人はそれで良かったのかと思うが、そういう悲劇を数多く知ってしまった現代の人々にとってはやり切れない思いが残るだけだ。
「正義は暴力にもなりうるが、慈悲が加われば神に近づく」
裁判の場面で法学博士が言う言葉だが、常に優勢な物が行う慈悲と慈悲を受けた事のない者に要求される慈悲に同じ事が言えるのだろうか。
ただ、この映画ではそういう面にかたよりすぎる事無く、どちらかに同情を寄せすぎることもなく、俳優の演技以外は抑えた演出で表現しているように感じた。
だからメロドラマになることなく、率直で品よく格調高い雰囲気を持つ映画になっている。
心に残るのはとても印象的なラストシーンである。
一件落着の恋人達が夢心地で寝室へ向かう中、残されたアントーニオは一人思いを馳せる。彼は何を想うのだろう?
父親を裏切り、父の宝石を持ち出して駆け落ちしたシャイロックの娘は、何もかも失った父親を想い浜辺に立ち尽くす。
敗北し、キリスト教に改宗させられたシャイロックの目の前で、ユダヤ人の居住区であるゲットーの扉が閉じられる。
エンディングの音楽もとてもよかったし、久しぶりにいい余韻が残る映画だった。
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こんにちは、始めまして!
>アントニオの描き方が物足りない事
確かに。影は薄かったです。
これってもしかしたらわざとなのかな、と無理矢理納得した感もあります。
アントーニオを描き込んでしまうと、アントーニオ対シャイロックという構図が出てきてしまう。
そういう意図ではなかった、ということではないかなと。
私もジェレミー・アイアンズは大好きなので、せめてもうワンエピソード欲しかったのは同感ですー